すべては数直線の上に+詩集
気が付いたとき、僕は彼女の背後に回り首をしめていた。
自分の両手に渾身の力をこめて。

そうして僕は、彼女を、殺してしまった。

力を失った彼女の身体はそのまま床に倒れ、ドスンという大きな音が部屋に響いた。
その音で僕はハッとし、自分がしてしまったことの重大さに気付いた。

そんなとき、携帯が鳴った。
彼女の携帯だ。
着信音は五秒ほどで鳴り止み、部屋はまた無音になった。
彼女の携帯が床に転がっており、画面に『新着メールあり』と表示されていた。
そして小さな青いランプがそれを知らせようと点滅している。
きっとさっき彼女が返信していた相手からのメールだろう。

僕は恐る恐る彼女の携帯を手に取り、一番大きなボタンを押した。

メールが開封され、画面には本文が映し出された。
差出人を見ると、そこには、お母さん、と表示されている。

久しぶり、元気にしてる?
最近寒くなってきたから風邪には気を付けるのよ。
彼氏とはうまくいってる?
あんたたちまだ結婚はしないの?
お母さんそろそろ孫の顔が見たいなぁなんて思ってるんだけど。
今度うちに彼氏連れておいでよ。
お父さんも寂しがってるし、たまには帰っておいで。


目から涙が出てきて、僕は何気なくテレビを見た。
芸人たちが面白いトークを披露し、観客はそれを見て大声で笑っていた。
スタジオ内のカメラが観客を映し出す。
そのとき一瞬ではあったが一人笑いもせず、冷静にトークを聞いている男がいた。
まだ若いのだろう、白いシャツにジーンズの爽やかな印象の男性だった。
男性がこちらを見ているような気がした。
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