すべては数直線の上に+詩集
その日、彼女の見舞いを終え帰宅してからも僕の頭の中は相変わらずあの言葉に支配されていて、部屋にいても全く落ち着かなかった。

リビングでテレビを見ていても

シャワーを浴びているときも

見舞いの帰りにコンビニで買ったビールを飲んでいるときも

そしてベッドに潜り込んでからも

僕は全く落ち着かなかった。

僕はホロホロらーめんという言葉と共に数日過ごした。
それはお世辞にも快適な生活とは言えないものだった。

数日後、僕はまた彼女のお見舞いのために病院へ行った。
彼女は退院が決まったようでとても喜んでいた。
そんな彼女の笑顔を見ていると僕も嬉しくなった。
ただ僕は今日はどうしてもあの足を骨折している彼に会いたかった。
ホロホロらーめんについてどうしても教えて欲しかったのだ。

だがその日、待てども待てども彼は病院の待合室に来ることはなかった。
置き去りにされたような寂しさを感じた。
彼はなぜ今日に限って来ないのだろうか…。

もう退院してしまったのだろうか?


結局、それ以降彼に会うことはなく、彼女が無事に退院したことで僕が病院に行くことはなくなった。
それからもしばらくはホロホロらーめんが僕の頭を強く揺さぶったが、やがてそれは治まり後には台風が過ぎ去ったときのような静けさだけが残った。

それでも僕はこうしてラーメン屋に来て、食事をする度にあの時彼と話したことを思い出す。
彼は今どこで何をしているだろう…?
故郷の富山に戻ったのだろうか?

遠く離れたこの小さなラーメン屋で、僕は注文した味噌ラーメンを食べながら、彼の故郷富山と、水墨画を描く主人のいるラーメン屋、そして何よりホロホロらーめんのことを考えている。

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