すべては数直線の上に+詩集
始発電車の振動に揺られながら、ユウタはさきほどの話の続きを思い出していた。
乗客は少なく、この車両にはユウタの他には三人しか乗っていなかった。
小さな女の子、そのお母さん、そして眠そうな顔をしたサラリーマンだ。
それぞれがそれぞれの目的をもって電車に乗り合わせていた。ただそれだけのことだ。

ユウタの頭の中にはまださきほどの彼の言葉がこだましていた。

…俺はなんのために生きてるんだろう?
週に五日、会社に通い、なにも考えることなくただ雑務をこなしてるだけじゃないか。休日だって特に充実してるってわけでもない。
彼女だっていないし、他人に自慢できる何かがあるわけでもない。
ほんと何のために生きてるんだか分かりゃしない。

電車の外を見ると朝日で輝いた景色が時速90kmくらいで流れてゆく。
四角い窓を通して見るそんな景色は、10倍速で見る映画のようだった。
何が何だか判別すらできない。
映ったものは、次の瞬間には過ぎ去っている。

俺の人生もこんな感じなんだろうな、ユウタは呟いた。
そして再び彼を思った。

彼の言葉には彼の熱い思いが込められていて、彼の歌声には魂が宿っていた。
ユウタはそう感じた。

彼の言葉は真っ直ぐに愛する女性に向かっていた。
あまりにも綺麗な、定規を使って引いたラインのように。


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