空と砂と恋の時計
本編
春の息吹を浴びるには少し遠い一月。

私は屋上にある給水塔の壁に寄りかかり、太ももの上に小さなお弁当箱を乗せ、空を眺めていた。

どれ一つとして一定の形式にはまらない薄い雲達は太陽を遮る事無く、緩慢な動きを見せる。

今日は風もなく、今の時期にしては暖かい方だ。

だというのに屋上で一人ぼっち。別段、いじめられている訳じゃない。自分で言うのもなんだが友人は多い方だと思う。

しかし、昼食の場において私は友人と机を囲んだ事がなかった。友達は多いのに昼食だけは別。これ如何に?

答えは私が外で、空を眺めながら食べるのが好きだから。この好きに理由なんてない。

夏場はここ屋上で友人と鍋――もといお弁当箱を囲んで昼食を楽しんでいた。

しかし、肌寒くなった秋の終わり頃には一人、また一人減っていき、いよいよ屋上には私一人になってしまった。

友人との楽しい食事を放棄してまで屋上にいる。これ如何に?

――って、私ったら何を一人問答やってるんだか。

自分で自分に突っ込みを入れていると、目線の先にある防音効果の施されていない鉄製の窓の奥からリノリウムの階段を軽快な足取りで踏み鳴らす音が響く。

私が一人で屋上にいる理由の一つであるあいつの到着だ。


「あ、いたいた。お~い百合さ~ん」


そんなに大きな声で呼ばれなくても目の前にいる訳だし、死角となる場所もないんだから分かってる。

貴志は昼休みになると決まって混雑する食堂のパン売り場の激闘を征した証であるパン三つを片手にこちらへ歩みを進めてきた。


「遅い」

「う……ごめん」


ジト目で睨む私に、ついつい条件反射のように謝る彼。本当は謝る必要なんてこれっぽちもない。

だって、一緒に昼食を食べるなんて約束は今まで一度もした事がないんだから。



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