純恋〜スミレ〜【完】
ほんの数メートル先に優輝がいる。
だけど、優輝があたしに気付く様子はない。
優輝は横断歩道を渡ることはせず、駅の方向に歩みを進める。
その後ろ姿はどんどんと遠ざかっていくばかり。
「……優輝……」
ポツリと呟いたあたしを見て、隣で信号待ちをしていたサラリーマンが怪訝そうな顔をこちらに向ける。
信号機が青になって一斉に横断歩道を渡る人々。
あたしは人の波をぬうように歩いて、小さくなる優輝の背中を追いかける。
……――待って、優輝。
お願いだからおいていかないで。
あたしから離れていかないで……――。
自分でもおかしいって分かってる。
電話もメールも、優輝からの連絡を一切無視してるあたしが優輝の背中を追いかけるなんて。
だけど、追いかけずにはいられない。