ひとりだけ。
あたしは深呼吸してから彼が一人になるのを待った。

そしてメンバーと離れタバコを買っている彼に由香と二人で近づいた。


『あの…これ!』


あたしはいきなり握りこぶしを突き出した。

彼はびっくりしつつも握りこぶしの中身を悟り軽く笑った。


『ありがとう』


そう言った彼は歌っている時の意志の強そうな声よりも穏やかな声をしていた。

あたしはそっと握り締めていた手を緩め彼の手にポトンと落とした。


これで彼との接点は無くなった。


指輪も持ち主に返った。
これでおしまい。
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