失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



帰宅寸前で携帯が鳴り

男に再び医者が呼び戻されて

この部屋に入ったとき

僕はベッドの中で白目をむいて

口から泡をふいていたらしい

すでに意識はなく

呼吸が止まりかけていた

医者が戻るまでの間に

男が人工呼吸をしてくれていたが

自発的な呼吸はなかなか起きず

医者が到着して酸素ボンベを使うが

だんだん脈拍が消えていったと言う

いわゆる"心肺停止状態"

その時点で僕は

本当に死にかけていたらしく

あの夢のような出来事は

もしかすると臨死体験ってものかも

しれなかった




「強心剤が案外効いたみたいでね…

後は心臓マッサージと人工呼吸を

二人でひたすら続けていたよ」

医者は疲れきった顔で

意識の戻った僕にそう話した

「痛み止めはやっぱり効かなかった

みたいだね…シャブの方が効いたと

思うよ…死ぬよりまだマシな選択だ

と思うけどな」

僕は力なく答えた

「何度も頼んで…でも…打ってもら

えなくて」

医者はあきれたように男に向かった

「あなた…なんでこんなひどい離脱

症状の子に少しくらいクスリ打って

やらなかったんですか?…こんなに

うろたえるくらいならね…わからな

い人だ…この子をどうしたいんです

か?」

男はベッドの端に腰掛けて

膝に片方の肘をつき

額を指で支えていた

「先生には…関係のないことだ」

そのままの形で固まったまま

男は呟いた

「あなたから"先生"なんて…初めて

言われましたよ」

医者は面食らったように男に言った






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