失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



輪郭もしぐさも

笑顔も…

「…兄貴…?」

彼は笑いながらまた僕に言った




「まだこっちに来ちゃだめだよ」





だがそれは似ているが

兄の声じゃなかった



それは亡くなった

兄の父親だった



「戻るんだ…ほら…」



僕は兄の父親にトンと肩を押された

身体がゆっくりと後ろに倒れていき

僕は闇の中に落下していった



落下の途中で

僕を呼ぶ声が聞こえた

「…りしろ…!死ぬな…おい…」


頭の中がザーザー音を立てて

意識がぼんやりしていく

視界が白くなり

やがてホワイトアウトした

また僕は気を失っていた




気がつくと

肩をつかまれて揺さぶられていた

僕は元のベッドの上で寝ていた



男の声が耳に届いた

「バカ野郎…死ぬな…目を開けろ!

起きろ…!まだ逝くな!」

誰かが首に触っている

僕はモウロウとしていて

目を開けることが出来なかった

「…みゃ…脈が…打ち始めた…!」

帰ったはずの医者の声がした

「蘇生…しました」

「本当か?」

「ええ…弱いですが打っている…」

「ああ…生き返った」

誰かが僕の手を握った

男の手だった

身体の痛みが

だんだん戻ってきていたが

あの戦慄と恐怖は

なぜか消えていた






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