失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
僕の腕が彼の腰に回され
オートバイから落ちないように
しがみついていられるのも
長い時間ではなかった
ダウナー系のクスリが残っていて
頭と足がふらついているところに
シャブの禁断症状が始まっていた
脱力感と震えと寒気で自分の身体が
思うように出来なくなってきていた
震えて緩みかけた僕の指をつかみ
彼は細い路地で急にバイクを止めた
「しっかりしろ…ちゃんとつかまれ
落ちるぞ」
「力…入らない…寒…い…」
「そうか…これを着ろ」
今は何月だろう
寒いのはクスリが切れたからか
夜だからか
季節のせいか
時間と月日から隔絶されていた僕は
いまが何月何日かすら
よくわからなかった
時々梅が咲いているのが見える
2月か3月の初めなんだろうか
彼の背広を着ると少し暖かくなった
「もう少しだけ耐えろ…」
「…わ…かった…」
「かなりひどいな」
彼の言葉に無言でうなずく
なにか言えば
この場で崩れ落ちそうになるから
「走るぞ…しっかり私に抱きついて
いろ」
「うん…」
震える腕を彼の身体に巻きつける
彼がゆっくりと走り始めた
僕の回した手を片手でつかんだまま
しばらくして
郊外のラブホに転がりこんだ時には
僕の状態は最悪になっていた