失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「取り調べはいかがだったかな?」

「…心が…折れたよ…もう一度暴行

されたみたいな…気分…自分自身が

おぞましくて…それで…吐いてた」

「ああ…被害者はみんなそうなる」

彼は椅子に座り窓の外を眺めながら

僕を見ずに答えた

「君は気丈だ…と担当の刑事が言っ

ていた…監禁されて犯されて殺され

かけて…あれだけ薬物が入って禁断

症状もあるだろうに…つじつまの合

う話を聞けた…と」

彼は苦笑して軽く首を横に振った

「あの日…奪回したとしても…発狂

している可能性もある…そんな覚悟

までしていた」

彼は腕を組み少しうつむいた

「盗聴器から聞こえてきた君の声を

聞いて…潜入捜査中でなければ私は

すぐにでも君の状況を確認してあの

部屋から救出していただろう…だが

そのあと君が取引のキーパーソンに

なってしまった…そのことは私の可

能な手練手管の範囲を越えていた…

君が死ぬかも知れない…いや…すで

にまともな精神状態ですらないのか

も知れない…警察はあの部屋が見え

るビルから君を監視することにした

私は出来ないからな…こちらはあの

気違いサディストの殺人容疑と薬物

売買の両面から県警と合同で捜査を

していたから次の殺人のターゲット

が君だとわかり県警にあの部屋の監

視を依頼した…望遠カメラの映像が

確認のために私の携帯に送られてき

た…君が本当にそこにいた…そして

私は君を監禁していた男に犯されて

泣き叫ぶ姿を…見た」

彼はいつものように淡々と

凄惨な光景をためらいもなく

当事者の僕に語り続けた

僕は耳を塞ぐこともできず

身体が固まったままで

ベッドに横たわっていた





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