失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
僕は静かに目を閉じた
ごまかすための答えは出来ない
本気の彼に嘘は言えない
だけどそれは…
彼に都合のいい答えでは
きっとない
あの男と過ごした日々が
脳裏をよぎっていく
僕は…
あの男を好きだと思ったことが
あったのだろうか…
戦慄するような存在として現れて
買われて殴られて犯されて
売られる前の日に
愛されていたことを知り
だから僕は神にすら感謝した
そしてあの男は
実際には僕より
組織を選んだ
だけどあの先があれば…
あの最後の夜のその先があれば
僕たちは愛しあった…のだろうか
答えは…そう…
答えはない
それが僕とあの男の運命だったから
「僕たちは…始まる前に…終わった
あの男は僕たちに未来を造らなかっ
た…その先があったら…もしかした
ら僕たちは愛し合ったかも知れない
でもあの男はその先を造らなかった
だから僕はあの男を愛してはいない
だけど憎んでもいない…それに感謝
してる…あなたの言う通りだよ…憎
悪がないことが僕にとっての救いだ
から…」
彼は黙ってまま聞いていた
その顔が思い詰めたようで
心が痛んだ