失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「あの男は…君が安全でちゃんと医

療を受けられているか私に聞いた…

殊勝な心掛けで感動したよ…あの子

を壊したお前に知る権利はない…と

言ってやった…だが君が生きている

ことは教えてしまった」


それを聞いて僕は彼を見上げた

彼らしくない

とても不思議だった

「な…んで…?なんであの男に僕の

こと…生きてるって…」

彼は遠い目をして言った

「君を死なせなかったから…そして

逃げなかったから」

そして呆れたように付け加えた

「あの男を殺してしまおうかとも考

えたんだがね…だがやめた…とても

目障りだが…殺さない…前にも言っ

ただろう?…私は今回は正攻法に徹

するって…多少取り調べでは意地悪

させて頂くけどね」

彼の顔に再び不穏な微笑みが

戻っていた

その顔で僕を覗きこんだ

「私の意地悪は不当かな?」

その質問が一番意地悪だ

彼は僕をあやすように話した

「県警の話だとあの男は逃げなかっ

たらしい…発砲した弾は取引相手の

部下に命中した…私の潜伏先の元同

僚だ…本当はあのサディストにぶち

こみたかったんだろうが…おかげで

奴の罪状は増えた…確実に刑期を長

くするために自ら発砲した…そう私

は密かに思っている…だがなにもの

からも逃げられないことをあの男が

知ったのは評価に値するかな…私だ

ってそれを知ったのはつい最近だけ

どね…やりきれない話だが受けとめ

なければならない…あの男も君を支

配したつもりで逆に君の白い毒で犯

された…同じ毒を食らった私として

は私以上に苦しんでもらいたい」

「毒…って…ひどい…な…」

いわれのない皮肉に

僕は力無く呟いた

「そういえば質問に答えていないな

君は…」

僕が自分の毒を否定したのを見て

彼は再び僕に問いかけた


「あの男を…愛したのか?」


その声は答えをごまかせるような

響きではなかった






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