失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

方法と手段




母がこの寮を訪ねて来たのは

それからすぐのことだった

僕の話した『死後の世界』のことを

父が母に話したという

もちろん兄の父親が出てきたことも


父としてはそれが目的だったようだ

母の罪悪感をなんとか軽くしたい

いろんな意味で言いにくいその話を

父はその一心で母に話したらしい



母はポロポロ泣いて止まらなくて

それを見て俺も泣いちまった…と

恥ずかしそうに苦笑いしながら父は

電話で僕にそう話した

母さんがお前に会いに行くからって

いろいろ話したいこともあるし

所長さんに挨拶もしたいし…とさ



母じゃなくてなぜか親父からの電話

普通は電話なんかは父の用件を

母が替わりに掛けてくるのにな

珍しいことが起きるもんだな…と

少し微笑ましくなった

母が言いにくいことなんだろうな

もしかすると親父には言えない話を

僕になら出来ると踏んで

母に会いに行くように勧めたのかも

もちろん元夫のことで…



それよりなにより

父が僕に電話をくれるのが

嬉しかった

いまは親父と二人で兄貴を探してる

またその連帯感が甦ったようで

自分の中の父へのわだかまりが

解けていく感じがした






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