失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

失われた物語




「これが…お兄さんの資料だ」

ゆっくり彼は立ち上がると

ソファーの脇に置いてあった

黒いアタッシュケースの中から

A4の茶封筒を取り出した

「まだ会わせることは出来ない…君

に危険が及ぶ可能性がある…監察が

動き今回の一件にカタがつくまで待

ってもらいたい」

そう言うと彼の父親は

ソファーの上で膝を立てうずくまり

膝に顔をうずめている僕の前に

その封筒をそっと置いた



「あとは…任せた」

彼の父親は小さく彼にそう言うと

僕たちを残して部屋を去った




静寂が訪れた

彼も僕も身動きもせずに

しばらくそのままで止まっていた

外からかすかに車の流れていく音

部屋の中の静けさが際立つ



どのくらい時間が経ったのか

彼がソファから立ち上がる音がした

思わず伏せていた顔を上げた





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