失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「今日は無理だ…君を抱きたい…君

の兄さんの葛藤をなぞっているみた

いだな…とんだお笑い草だ」



唇を奪われて頭の中が痺れる

さっきの愛撫の残り火が疼く



「君がいとおしい…君の無垢な魂は

いつも私を驚かせる…君は知性で考

えるのではなしに魂の声を聞くのだ

な…そしてずば抜けた解答をいつも

手にする…君の知性がまったく及ば

ないような理解と境地…私が理性と

知性を研ぎ澄ましてたどり着くそれ

を君は一瞬にして聴くのだ…善悪の

彼岸へまで跳躍して…」

僕をかき抱く彼の手に力がこもる

「本質にたどり着ける者は少ない…

本質を望む者が少ないからだ…君は

本当に普通に見える…だが君を知れ

ば知るほど普通の中の普遍を見つけ

てしまう…その存在に驚嘆し…いつ

しか虜になる…こんなに深く…」



彼の囁きにあえぎながら

いつの間にかソファに押し倒されて

彼の下にいた

重さが愛しい

彼の言葉は難しかったが

優しく甘く溶けそうだった

善悪の彼岸…

善悪を超えた向こう側?

あなたもそこにいるような気がする




僕たちにも

時間を下さい

互いを手離せる時間を…

神さま





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