失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

無為




翌日から始まったのは

なぜか普通の1日だった

セラピーは延期

予定は未定

僕の心は空白のまま茫然としていた



彼との二人だけの生活も

普通とは言いがたい軟禁状態も

心の中の空白も日常とはかけ離れて

自分がいったいどこに居るのかとか

夢と現実の区別がつかない感じとか

ほんとにパラレルワールドに

紛れ込んでしまったようなのに

夢の中の例の感覚みたいな

奇妙な"当たり前感"が

この空間を支配していた



僕が発狂しかけたことで

セラピーは中断したけれど

彼は仕事の薬物更正プログラムの

データの整理を始めた

今までデータを取った薬物依存の

患者のケースごとの具体的な対応

とか…なんとか

当然僕のケースも…というか

それがメインとか…なんとか



「アントニオ・グラムシの獄中ノー

トのようにだ…期間が短か過ぎるが

な」

これはつまり

この軟禁された時間を有効に活用…

という意味だ…と思うけど



なにもかもが寝ても覚めても

夢の中にいるみたいだった





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