失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



なぜそんなことを言ったのか

自分でもわからなかった

だが僕は求めていた

誰にも知られてならないそれを

もう

見せてしまいたい

抱えた重さが

僕たちを圧し殺して

すべてが取り返しのつかない

残酷な血まみれの惨劇と化す

その前に

その前にどうしても

僕は言わなければならない

誰もが目を背けたくなる

異常な僕たちの現実について…

言わなければ

先に

進め…な…い







僕が一番認めたくない言葉

兄のイバラの冠

なぜなら僕は兄が血を流して

悪夢の中で崩壊しかけていたのを

知っているからだ

僕は兄を傷つけるものを

認めはしない

それがたとえ

《法》と呼ばれようとも

《世の摂理》と言われても

僕は誰かの言葉を信じない

信じたくなかった

僕は

そうだ

祈りに答えた何かだけを

信じていた

それは正確無比で

魂を裏切らない

全ての思惑を裏切りながら

正確に愛だけを射抜く矢なんだ




だけど

僕はもう限界だ

ここに祈りに来た

だけど初めて僕は

彼の助けを請う

いまどれだけ僕が混乱し

全ての支えが幻のように見えるか

誰にもわかりはしないだろう

だが

この人だけは…




この重荷を背負ったまま

祈る気力が

僕には

なかった



懺悔



僕は何を悔い改めるつもり

なんだろうか?





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