失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】


「消えた兄さんを許してあげなさい

君は優し過ぎるんだ…優しさは正し

いだけじゃない…君は被害者なんだ

いいかい…君の兄さんは罪を犯した

それはぬぐいようのない事実なんだ

その父親は悪魔を招き君の兄さんを

犠牲者にした…だから君の兄さんも

君の言う通り被害者だ…でもそれで

君に対する罪が相殺される理由には

ならないんだ…この別れは神の恩寵

だと私は思う…今までの君の祈りは

この別れに必要な準備だった…神は

応えた…君を解放したんだ

長い間の虐待で心と感情は支配され

束縛を愛情だと認識してしまう…

私はそういう子供をアメリカでも

日本でも大勢見てきた…君も自分の

本当の感情を取り戻す時が来たんだ

…ゆっくりで良い…焦らずセラピーに

かかるといい…良ければ信頼出来る

セラピストを紹介してもいい…ただ

君は自分自身がどうなっているかと

いう事実に直面する必要がある…

それは麻痺の治る過程の激痛に似て

苦痛を伴う作業かもしれない…だが

それも時が来れば癒される…そう

神が君を癒すからだ…君の兄さんは

君と一緒にいてはいけない…兄さん

だっていつか罪をあがなわなければ

ならないんだ…贖罪をね…君はそれ

を神に祈るべきだ…兄さんのために

ね…」




そこまでだった

僕が耐えられたのは

そこまで






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