失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





兄が…罪を…犯した…?





途中から身体が震えた

それは緊張と

怒りとが入り混ざった

絶望感を伴った激情だった



身体の震えは止まらなかった

脱力が次第に心臓から始まり

僕は小さな暗い部屋で

椅子から落ちそうになっていた




僕の祈りが

兄を

僕から

引き離し…た…?




耐え難い寒気

冷や汗が脇から流れて

発作…

気が…変に…なる…




「すみま…せん…」

「どうしたのかな?」

「ほ…発作…が…」

「発作?大丈夫か!何の発作が

起きたんだ?」

驚いた様子で近寄る神父に

僕は恐怖を感じた

「や…やめ…」

「え?なんだって?」

「もう…帰り…ます…」




這いながら懺悔室のドアに

すがった

「君!そんなに傷ついたままで

自分を放っておくな!」

僕は力の抜けた足で

開けたドアを蹴った

勢いで肩から床に倒れる

だめだ

ここから

逃げなきゃ

早く

ここから…



助けを求めて

すがりついたものは

真っ赤に焼けた鉄の柱

僕は焼け爛れて

炭に




間違ってた

言ってはいけないことを

言った罰

僕が耐えられなかった

弱すぎたばかりに

あああぁぁ!




僕が…!

僕が…!

兄を…!

違う!

違うと

言って!

兄貴は

罪なんか

犯していない!




どこをどう走ったか

知らない

だけど

気づいたら

バイト先の店の前に

僕は立っていた






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