失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




小さい時のこと

兄と母と離婚のこと

初めて告白した時のこと

兄との蜜月のこと

そして忌まわしい事件のこと

兄の父親のこと

彼のこと

兄が失踪したこと

僕が薬に溺れたこと

監禁されたこと

彼が救い出してくれたこと

彼との関係のこと

失踪の真実が明らかになったこと

兄が記憶を失っていたこと

もう長くない病気だったこと

兄との短い生活のこと

病院で兄に起こったこと

そして亡くなったこと



うまく話せたかどうかわからない

ポツポツと要領を得ない話を

ヤツはじっと黙って頷きながら

嫌がらずに聞いてくれた



「それ…全部背負ってたのか」

「独りで背負ってたわけじゃない」

「そっか…じゃあ…いい」

「お前には助けられたんだ」

「そうかぁ?…オレ…蚊帳の外だっ

たようなきがするけどな」

「こんな蚊帳の中に入らせたくない

けどね…蚊帳じゃなくてスズメバチ

の巣みたいなもんだよ」

「けっ!…上手いこと言ってんじゃ

ねーよ」

ヤツは机に肘をついて毒づいた






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