失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「どこだ?出てこい!」

僕はよろけながら

消えた神父を探して廊下に出た

「ここか?」

真っ暗なバスルームの明かりを点け

ものすごい勢いでドアを開け

浴槽を覗きこんだ




浴槽の中は

真っ黒な闇だった




底のない黒い虚空が

ぱっくりと口を開けて

僕を招いていた

僕は驚いて後ずさった

その時闇の中から低い声がした

(こっちに来い)

(ここから入れば帰れるぞ)

僕は帰れるのか?

どこに?

そこに僕の帰る場所があるの?

帰る場所

それは僕にとって

最も甘美な誘惑の言葉だった

帰りた…い

ここは…いやだ

居場所も愛してくれる人もいない

(ではこちらへ来るんだ)

そっちの方が

僕を受け…とめて…





僕は浴槽に片足を入れた

足が闇に吸い込まれていく

消えてしまえばいい

このまま消えてしまえば…

僕は残った足をゆっくり闇に入れた






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