名も無き恋【短編】
あの頃よりも暖かい夜風の運ぶ初春の息吹。

幼い若葉のいい匂い。

星たちのぴかぴか繰り返し続けるおしゃべり。


そして、

あの人の面影。


私の感じる全てが、

今生きているということを実感させてくれる。


それで今は十分だ、


そう自分を慰めます。


けれど、

弱気になることも、
やっぱりあります。



さみしいよ……

かなしいよ……

ひとりぼっちはいやだよ……

こんど生まれ変わったら、

あなたの傍にいられるものになりたい―



優しい目をした人でした。

名前も知らない人でした。

名前を持たない私にも、
ささやかな幸せを与えてくれました。


今はただ感謝の気持ちで一杯で、

まんまるのお月様に

今の気持ちを呟いてみたりします。



「ミャー……」



そのお月様が、

だんだん優しい目をしたあの人のそれのように見えてきて、

今宵も切なさを隠すことが出来ないでいるのです。



さみしいよ……


かなしいよ……


ひとりぼっちは、いやだよぉ……










【完】
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