名も無き恋【短編】
エピローグ
あの人とお別れをして、
しばらくが経ちました。


私は相変わらず

小さな小さな寂れた公園に居を置いています。


何故だか夜になると、

もう会うことのないあの人を思い

感傷的になることが何度も何度もあります。


そんな時は、

新芽の生え始めた桜の木の出来るだけ高いところまで登って、

お月様がぽかんと浮かぶ星空を見上げます。



―どうしても飼えないんだ



そっかぁ…



―偽善者だ、って思ってるよなぁ…?



う、ぅん…



―お前は可愛いから大丈夫だ



そう、かな?



色々思い悩むことがあります。


だけど、

何よりまさっているのは優しくされた喜びです。


彼に出会えなければ、

私は一生人間を忌み嫌って、

闇に似た黒いものに支配されて生きていたでしょう。


誰かを想うこと、

何かをしてあげたいと思うこと、

欲を持つこと、

それらの経験ができて嬉しい。


優しい目をしたあの人を恨むことは、

決してしません。


これは恋というものだったでしょうか。


とても小さく

とても叶わなかったけれど、

ほんの少し幸せを覚えることができました。


ただ言えることは

あの人が好きでした。


いえ、過去形ではなく、

本当は今でも―…。
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