デスペリア
ふー、ふー、と一通り殴った後に、息をして、夫は妻にすがった。
また声をかけるが。
「ああ……」
駄目だった。
溢れる涙を拭うことはせず、冷たくなっていく体を夫は抱きしめるしかなかった。
手を握り、固い感触があたる。
指輪だった。
粗末ながらも、プレゼントした際に妻は喜び、以降、どんな時でもはずさなかった――自分とお揃いの指輪だった。
「……」
指からそれを抜く。指についた血が滑り役を果たしたか、指輪は楽に抜けた。
血を拭い、指輪を見つめ、今まで妻と共に過ごした日々を振り返る。
「リタ……、ああ、魔物を、魔物を……」
指輪を握りしめたまま、よろりと立ち上がった夫。寝室を出る前に、兵士が持っていた銃と、兵士の懐から散らばった弾丸を一つだけ持ち、ふらふらと夫は出ていく。