十†字†路
あとは思い出すまでもない。

懐古の記憶は鮮明に……とまでは言わないが、割りと完全に覚えている。

色は失われ、
音はひび割れ、
だけど壊れずに私の中で生き続ける。

セピア色だけど、
声は不鮮明だけど、
それでも私のお爺ちゃんは私の中で生き続けてる。

それが私の懐古記憶。
揺るがない確かな記憶。
古くて埃ッポイけど、暖かな記憶。

だけど……

「それなら、懐古の記憶にさえ存在しないあの子は一体……誰?」

消去されたかの様に無くした記憶。
再生されたかの様に蘇った記憶。

嫌な過去なら忘れるけれど、それならこの記憶は一体何のために忘れたのだろう?

なんだかまるで……

「誰かに忘れさせられたみたい……」

ふと、

視界の端に映る昔の私が泣きそうな哀しそうな顔をしたのが見えた。

夢の様な夢。
幻の様な幻。

懐古記憶の中の私は何を想い、何に寄せるのか?

いつか見た景色はもう暗く、墨を入れた様に黒く、闇と言うより無に等しく、もう昔の私以外は何も存在しなかった。

鏡に映した様に対面し、
鏡で通した様に曖昧で、
まるで鏡に私を見られている様で……

…………。

さ、そろそろ起きなきゃね。

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