その手で溶かして
「ほら、あそこで忙しそうに動いている彼。見える?」
私の目線に合わせるように遠藤君はカウンターの近くにいる子を指差した。
「えぇ。」
「ここは彼のお母さんのお店。今日は貸し切りにして使わせてもらうらしいよ。」
「そう。」
私と似ている価値観を持っていると感じた遠藤君。
その居心地の良さから付き合うことにした遠藤君。
そんな彼が私の“当たり前”を否定する。
今のこの発言だって、私の思い描いていた遠藤君とは程遠い。
このような場所に来るとわかっていたら、私は絶対に断っていたから。
「今日は帰るわ。」
鞄を掴み、立ち上がった私は自分の居場所へと戻る。
少しの興味から足を踏み入れてしまったけれど、私には必要ない。
私の“当たり前”が壊される前に、私は私のいるべき場所へと帰る。