To.カノンを奏でる君
 と見栄を張ってみたが、実のところ、成就しない方が可能性として高いのだ。

 それが分かっていながら、直樹は言おうと思っている。


 花音を幸せにしたいと思ったあの気持ちを、まずは花音に顕さなければならない。


「直ちゃん」


 呼ばれて振り返ると、見慣れない格好をした花音が立っていた。

 直樹が驚いて花音を見つめていると、花音は自身の服装がどこかおかしいのだろうかと不安そうにした。


「おかしい?」


 何も言えず、口を閉ざす直樹に、花音は半ば詰め寄った。


「直ちゃん、聞いてる? おかしいなら言ってよ。着替えて来るから」

「あ……いや、おかしくはない」

「本当?」

「本当」


 ただ、綺麗になった。


 ピンクのロングスカートに、薄いオレンジがメインのアンサンブル。

 今までの花音の服装は、どこか子供っぽいところがあった。

 そんな花音を見て来たからだろうか、大人びた格好の花音は、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 軽いメイクがより一層花音を引き立てた。


(あー、こりゃやばい。惚れない奴はいないな)


 直樹は深い溜め息を吐いた。

 これではデートをする事が嫌になってしまう。


(祥多なら不機嫌な顔してデートしそうだ)


 安易に予測出来てしまった直樹は小さく笑った。

 花音は直樹が理解出来ず、首を傾げていた。


 それに気づいた直樹は、ごめんごめんと謝りながら、行こうかと出発を促した。
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