To.カノンを奏でる君
「ほんと、花音ちゃんは凄いわね」

「ん?」

「だって、ここにいる男性全員が花音ちゃんの事、一番に大好きなのよ」


 美香子の言葉に、花音は顔を真っ赤にして俯く。そんな花音を可愛いと思いながら見つめる美香子に、直樹が耳許で囁いた。


「俺はお前も好きだけど?」


 見る見る内に、美香子の顔が茹でタコ並みに赤くなる。


「や、やめてよ、直樹君! からかわないでっ」


 花音と早河は含み笑いをし、祥多はただ一人ポカンとする。


「そういや、お前ら急に仲良くなったなぁ。付き合ってんのか?」

「へ?! ぁ、いや、あの、違うの! ほんと、私からかわれてるだけで!」

「そーか?」

「うん!」


 祥多と美香子のやり取りを笑いながら見ている直樹に、花音はそっと近寄る。


「実のところ、どーなの」

「葉山さんの事?」

「うん」

「ふふ。さぁね」

「一つだけ言うけど、美香子ちゃん泣かせたら怒るからね」

「了解」


 早河は腕時計に目をやり、そろそろ電車の出る時間だと気づくと、花音の方を見る。


「草薙、そろそろ」

「あ、うん」


 花音は元の立ち位置に戻ると、祥多を見た。


 まだ何も言ってくれない。その事に寂しく思いながら、じっと祥多を見つめる。

 視線を受け、祥多は溜め息を吐いて花音と向き合う。


「頑張るなよ」

「……祥ちゃん、それ違う」

「あんま無理すんな。よく食ってよく眠れ」

「ぷっ。お母さんみたい」

「体には充分、気をつけろ」

「は~い」
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