To.カノンを奏でる君
 いつまで自分は二人の笑顔を見ていられるだろうか。直樹はそっと目を閉じる。


 祥多がいなくなるのは、明日かもしれない。明後日かもしれない、一年後かもしれない。

 そう考えると怖くて堪らない。

 その時の、祥多がいなくなった時の花音の事を考えると息も出来ないくらい苦しくなる。


 ―──きっと壊れてしまう。


 いつかの崩壊を思い、直樹は唇を噛む。泣きそうになるのを堪え、立ち尽くす。

 だから、自分がリクエストした曲の終わりに気づかなかった。


「直ちゃん?」


 ハッとして目を開けると、心配そうな花音の瞳と出会う。祥多もどこかしら心配そうだ。

 二人を安心させる為に直樹は笑った。


「幸せね。この“今”が」


 直樹の言葉に、二人は口許を緩めた。

 皆、この幸せな時を共有しあっていた。





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