To.カノンを奏でる君
「花音を知ってるのか」

「草薙さんと同じクラスなんだ」

「ふーん」


 いつからなのか親しげな二人の間に、花音の入る隙は見受けられない。花音はどうする事も出来ずにいる。

 それに気づいた祥多は、花音に入って座るように勧める。が、花音には葉山と並んで座れる自信がなかった。

 まず、苦手なタイプなのだ。


「おい、花音」

「……あ。私、お邪魔?」

「んな事ねーよ。な、花音」


 こんなにも祥多の事を想っているのに。祥多には相手がたくさんいるのだ。


(私じゃなくてもいいんだ)


 今まで自分が特別だと思っていた。

 恋愛対象ではなくても、祥多にとって自分は特別なんだと思っていた。けれど、それは違うのだと思い知らされる。


 自分に対する態度と葉山に対する態度は全く同じなのだ。

 泣きそうになるのを堪え、花音は笑みを浮かべる。


「ごめんね。今忙しくて、顔出しただけだから…もう帰らなくちゃ」

「花音?」

「じゃあ、また。バイバイ、葉山さん」


 花音は病室を後にした。


 真っ白な廊下をとぼとぼと歩く。

 ただでさえ、気が滅入っているのに、あんなところを見てしまっては悲しくもなる。


 ポタッ…ポタ…


 俯いているせいで、涙が床に落ちる。
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