To.カノンを奏でる君
 パンッと乾いた音が教室に響いた。

 花音は打たれた左頬をそっと押さえる。


「何なの、一体…。意味分かんない!」


 美香子は怒り、花音を睨みつける。

 ずっと様子を見ていた直樹は、さすがに我慢出来ずに割り込んだ。


「手をあげるなんて最低ね」


 花音を庇い、美香子と対立する。

 美香子は正論に一歩下がる。


「黙って聞いてたら何? お前何様のつもり?」


 いつもより低い声で、いつもと違う口調で直樹は葉山を威嚇する。


「な……何よ!」

「ざけんなよ、新参者が。祥多に優しくしてもらって付け上がって、それで付き合う付き合わないの話してんの?」

「新参者で何が悪いのよ!」

「踏み込んで来んなっつってんの。迷惑。てか邪魔。俺らの前から消えろ」


「な…直ちゃん言い過ぎ!!」


 この言葉にはさすがの花音も美香子を庇う。彼女はただ一生懸命なだけで、悪い人間なわけではない。


「花音。傷つけられたのお前の方だろ。何庇ってんだ」

「葉山さんの言ってる事も一理ある! ねぇ、直ちゃん、落ち着いて!」


 花音は直樹の背中に抱きつく。

 直樹は溜め息を吐いて、葉山に攻撃するのをやめた。


「分かったよ。怖がらせてごめん」


 前に巻かれた花音の腕をほどき、頭を撫でた。


「言い過ぎてごめん、葉山さん」


 直樹は謝罪の言葉を残し、席に着いた。


「私も言い過ぎた。朝からイライラしてたから、勢いに乗って八つ当たりして…、ごめんなさい」

「…………」


 葉山は無言のまま自分の席に戻った。


 教室の空気が重いまま、一日が始まった。





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