お願い、抱きしめて
「私はあなたみたいに呑気じゃないの」
「むっ…。それどういう意味だよ」
つい、カチンと頭にきて挑発的な態度に出る。相変わらず泉は、冷静沈着。
台本を眺めながら、頭の中にあるノートに書き綴った文字をぺらぺらと言葉で出す。
「せっかくオーディションに受かって貰えた役なんだから、半端な事はしたくないのよ」
「…」
「ここで頑張らなきゃ一緒に夢追って、頑張ってきた養成所の仲間に申し訳ない。先生にも…辞めていった友達にも」
絞り出す声が耳に入る。唇をきつく噛んだ姿ご目に映り、湿った空気が熱い。
同情なのか。たんに言葉が見つからないのか。さっきまでの意地っ張りなオレは、だんだん影を薄めていた。