お願い、抱きしめて

まじまじと、泉の整った顔を台本越しに見つめる。毒舌声優、泉玲奈。彼女の考えてる事はわからない…。



「あまり見ないでくれる?気持ち悪い」


「うぐっ…!」


「私に変な気起こそうなんて考えないでよ。論外なのよ、あなたは」


「ううっ!…お前になんか、変な気起きねぇよ」



震える手を握りしめ、一撃を食らいながらもどうにか言い返せた事が誇りへと変わった。


視線が交差する度に、バカにしたような笑みを見せる泉。「バカにすんな!」って言いたいけど、言ってしまったら奴の罠に嵌まるからあえて言わない。


うん、オレも成長したもんだ。大人になった(多分)。


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