お願い、抱きしめて
きっと、それは本当で
◆◇
「音也めでとう」
9月上旬。オレは事務所に足を運んでた。以前、受けたゲームのオーディション合格。渡されたのは、分厚い台本三冊。
「ありがと」
照れくさいが、それを受け取って、ページをめくる。ちゃんと自分のキャラの名前があって、台詞がある。
当たり前の事だけど、感動して涙が出そうだった。ここ最近、オーディションは受かったり落ちたりの浮き沈みばっかりで。
台詞が短くても、声を通して仕事ができるのが何より嬉しいんだ。
「オーディションくらいで、泣きそうな顔するのやめてくれる?」
「う"っ…」
合格余韻に浸るオレだが一つ忘れていた。そう、実は泉も他の仕事のオーディションの結果を聞きに来てた事を…。
険悪ムードのオレと泉。その隣で「ははっ」と、苦笑いする深見。