お願い、抱きしめて

「音也、泉さんと仲良くしろよ。せっかく同じ事務所の仲間なんだから」


「仲間じゃなくてライバル!オレはあいつを声優として認めない」



間髪入れずキッと目を光らせたオレは腕組みをして黙り込んだ。


感情豊かで、顔に全て出てしまうオレは、いくら仕事をしていてもガキの考えしか浮かばない。


大人の対応ができないんだ。自分でもわかってるけど…なかなかコントロールするのが難しい。



「ライバルでもあり同じ声優として仕事をする仲間だ。声優はチームワークだぞ。どんなに嫌いな人がいてもその人と協力して、一つの作品を作り上げていく」



仕事パートナーの深見から、言葉を詰まらせる返答が反ってきた。何も言えないオレは、黙って聞く事しかできなくて。



「アニメは一人の人の力では作れない。製作の人、監督、声優がいてはじめてアニメになるんだ。ちょっと嫌味を言われたくらいで、カッとなるな。それに泉さんも実力がある声優の一人なんだから」



当たり前の事を、当たり前のように返されて、唇を噛む。言い返せないのは、深見が言ってる事の全てが正しいから。


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