お願い、抱きしめて
「…音也くん」
呼ばれる名前に心臓が跳ねる。涙が温かくなる。
背中に回された菜子さんの腕のせいで、抱きしめてた力が弱まってしまう。
痺れる甘い感覚。春の風の匂いに混じる女の子匂い。
どれも、中学生の時から知ってる初恋の味──…
「菜子、さん…」
小さく呟いた名前。微かに震えた唇。消えそうな声…。
言えない"好き"が。黒い塊だった仕事への、不安が涙となってアスファルトへ一粒落ちた──…