お願い、抱きしめて
「…それ、オーディションの資料?」
鞄の中からちらりと見える資料に目を留めて、泉が問う。「うん」とは言わず、ただ頷くだけ。
「ネットでも話題よ、誰が声するか。一部の掲示板ではキャスト予想なんか始まってる」
「どうせ、同じ声優ばっかだろ」
毎回の考えに、言った言葉すら冷たくなる。いつも同じ声優。いつも同じ人。
そんな事しか言えない自分が情けなくて、悔しい。
「自分は」って思う度に、一番辛いのは自分のくせに。
「せいぜい足掻いて頑張りなさいよ」
慰めなのか。嫌味なのか。どちらともわからない言葉に、一瞬戸惑う。