お願い、抱きしめて

そのまま、資料を鞄に押し込んでいたら、泉が何かを言いたそうにオレを一瞬見てドアノブに手を回した。



ガチャと、音が聞こえた時、同じタイミングで聞こえたのは泉の声。



「私の夢は幸せになる事、ずっと声優であり続ける事」


「…オレだって同じだ。ずっと声優でいたい(絶対離したくない夢なんだよ)」



誰にも負けたくない気持ち。諦めたくない意地。



「同じ事務所でもライバル同士、頑張りましょうね」



宣戦布告か。それともライバル意識なのか。


それだけ言い残して泉は、部屋を後にした。


仲間であり、ライバルである泉玲奈は"毒舌声優"。


帰り際、手に持つ鞄は事務所に着いた時より重たかった。


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