世界の果てで呼ぶ名
 午後の暖かい日差しが、森を美しく輝かせている。潤いに満ちた数々の花が咲き誇り、木々は鮮やかな緑を纏っている。人には想像すら出来ないであろう荘厳さで森は佇んでいた。

 結界に守られた天界は闘争など皆無であり、其処に存在する者達は平穏を当然と受け止めていた。

 この森――聖域の森とて同様で、儀式を行なわれる時だけを除外すれば、通常は動物達の声の旋律だけが聞こえる穏やかな森であった。

 しかし、始まりとは如何なる時でも唐突である。

《お待ち下さい!》

 森番の勇める様な必死に叫んでいる声が森にこだまする。

 突然の大きな声に鳥達は何事かと思ったのだろう、声の主の傍に集まると木の枝に止まった。

 森番は茶色の柔らかい毛を逆立て、小さな躰を震わせながら、大きな声で鳴いている。

 その声に気まずそうに微笑む青年がいた。

 ――青年の名は那知。

 年齢は二十六歳。かなりの長身で肩幅が広く、細めだが決して痩せ過ぎではない身体。Tシャツにジーンズという軽装だった。
  
 髪は明るい栗色。前髪を斜めに流し全体的にフワフワさせた柔らかそうな髪型。

 斜めに上がった眉毛の下に青碧色の瞳。

 魅力的な力強い輝きを放つ瞳が、那知の整った顔立ちをより一層引き立てていた。
 

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