閃火高遠乱舞


 古城は酷い有様だった。
柱には蔦が巻き付き、石像は朽ち、煉瓦はひびが入っている。
床を汚す赤は、突入隊のものだろうか。
 宝王子は日本刀を片手に、ゆっくりと馬を進める。
新川はとうに乗り慣れぬ馬を降り、巨大な槍を担ぎながら走っていた。
 しばらくして、奥から弱い光が見える。
半ば崩れ落ちた扉から、明かりが漏れているのだ。
 そこに、今回の戦を任された主将がいた。
 端に一人倒れている。
日本の突入部隊だ。
代わりに敵武将の回りには、彼の護衛であったろう兵が三人、地に附していた。
 まだ突入部隊は三人残っている。
だが、多勢に無勢ではあれど、敵武将に傷はない。
 放つ殺気がその場を覆い尽くしていた。
下手をすれば呑まれてしまいそうだ。
これが軍を任せられた男の放つ覇気だった。
「ご苦労さん。あとは任せなよ」
「将軍…!!」
 宝王子が声をかけると、気付いていなかった――と言うよりも集中しすぎて無害な者には気付けなかった三人が、ホッとした表情を浮かべた。
 とは言え、
(厳しいな)
と宝王子は思う。
 まさかたかが日本に遠征するのにこれほどの実力者が宛がわれるとは思っていなかった。
なんせ日本は初陣である。
戦力とて高が知れている。
 それほどまでに北朝鮮は日本を憎み、恨み、畏れているのだ。
 コクリと渇いた口から無理矢理出した唾液を飲み込み、刀を構える。
新川も尋常でない雰囲気を敏感に察知して――彼はこのようなものの感知は日本一優れている――槍を両手で握り締めていた。
 どちらも動かなかった。
「何をしている」
彼が、来るまでは。




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