閃火高遠乱舞

 本来ならば入って来られないはずの少年。
彼は槍やら剣やらを向けられた中央で、俯いて立っていた。
 医療班「白夜」軍将軍の、山代聖が。
「どういうことだよ、これは…。何でみんなして武器向けてんだよ!?」
「反逆者だ」
 答えたのは帝をいつでもかばえるよう隣に控えていた聖徳だった。
その声音は重く、低い。
目付きも、いつもより二割増しで悪くなっている。
 だが宝王子は、その意味が理解できなかった。
いや、したくなかった、とするのが正しい。
「…山代が反逆って……冗談だろ?」
「残念だけど、事実だよ王子」
 大山は感情の起伏を感じられない表情で宝王子を振り返る。
それは、まさに隠密の顔だった。
「なんで…?なんでだよ山代!!」
「前、アメリカとやりあったじゃない?」
 怒鳴った宝王子に、ようやく山代がぽつりとした呟きを返す。
表情は、相変わらず伺えない。
しかし、淡々と事実を述べていく。
「その中に、僕の妻がいたんだ」
「え…」
「妻は、新川に殺された」
 衝撃の事実。
明かされた真実は、過酷なものだった。
 山代の結婚式には、宝王子も参加している。
優しそうな女性だった。
明るい笑顔が魅力的な、普通の女。
その彼女が軍人には見えなかった。
「僕が軍人になって、彼女もなった。もし戦うときが来たら逃がせるように」
 でも間に合わなかった。
 山代はそう続けた。
山代の軍「白夜」は常に後方に配置される。
その将軍である山代が、前線にいた彼女を助けに行くなど、不可能だった。
「だから、日本軍の機密をアメリカに流用させようとしたわけか。小賢しい」
「帝…」
 吐き捨てた帝の口調は、思っていることをそのまま口にした風だった。
それを酷いと思うことはすれど、表にはできない。
彼は日本そのもの。
彼が山代を極刑にすると言えば、極刑になる世界なのだ。
「口を割らせる必要はない。始末しておけ」
「はっ!!」
「後は頼むぞ聖徳」
「お任せ下さい」
 帝はそう言うと身を翻し、室内から出て行った。




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