閃火高遠乱舞
 その夜、宮殿では宴会(フェットゥ)が開かれた。装飾電燈(シャンデリア)が眩い七色の光を落としている。その光は互いに溶け合い、何とも言えぬ色を床に向けていた。
 色とりどりの衣服(ドレス)を身にまとった女性(マドモアゼル)達が楽しげに談笑している。ふうわりと漂う香水が混ざって、酷く甘い芳香を醸し出していた。
 鼻孔をくすぐるのは鮮やかな果物(フルーツ)。口を楽しませるのは、美しい紅をたたえた芳醇なフランス産葡萄酒(ワイン)だ。
 外国の雰囲気は初体験な四人は緊張・興奮・期待・不安が入り混じってドキドキしていた。当然、軍装以外の正装も初めてである。
「うわ、すげぇ人」
 宝王子は窮屈そうに襟元を弄りつつ、辺りのきらびやかな光景を居心地悪そうに見まわす。場違いな気がしてならない。ぽかんと口をあける大山と林も、ミカエルにドレスを着せられている。
 そんな中。
「あれ、新川はどこ行った?」
「…え!?」
 宝王子が姿の見えない新川に気づき、狼狽した声をあげた。
「……あそこ」
 大山と共にうろうろと視線を巡らす二人に、いち早く発見した林がスッと指でさし示す。
 ――いた。
 ガツガツと服が乱れることもお構いなしに次々と肉を掻っ込んでいる。普段常備のバンダナが無いせいか男気が増しているが、喰いっぷりのせいで残念ながら女性に声をかけてもらえない。
「バカ、何してんだあのイノシシ!!」
 こんなところに来てまで赤っ恥をかかせるな、と宝王子は新川の方にすっ飛んで行く。緊張でガチガチだった身体は、怒りのせいで熱くなっている。
 宝王子は夢中で食べ進めている新川の背後に立つと、思いっきり頭を殴った。パカン、といい音が響く。
「いって―!!王子、いきなり何すんだよ!?」
「イテェのはこっちだっつの!挨拶も終わってねぇのに何食ってんだ!!」
 まだ主催者のミカエルも、お付きのトウヤも来ていない。燕尾服の男性はくるくるとテーブルを回り、人々にシャンパンの入ったグラスを手渡している。明らかに「乾杯やります」的雰囲気だ。
 大山と林はガッチリと新川をホールドして、テーブルのない隅の方向へ引きずって行く。ともかく人目を憚りたかった。
「いーい!普通、社交的パーティの時は一斉に乾杯すんの!!」
「それまでは知り合いとかと談笑して、食べちゃダメなんだよ」
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