ブラッククロス
外は雲が出ていた。
空を見上げながら飛ぶ…ひとつのシルエット。






収まりの悪そうなクルクルした髪が風になびいている。






フワリと道に降り立つと路地からろくでもない輩が出てきては鈍い音を立てて道に転がっていく。





何処に行ってもそれだ…。
風は気まぐれに遊んでるだけ。






王位継承なんて真っ平ごめん。縛られるのを望むはずもなく…。






煩わしい蝿が群がって面倒…。






街を見下ろす丘に立っていた。
この街はなんとなく愛着があった。
紫にオレンジの光が揺れる。





いろいろなものが混じり合いながら暮らしていた。






似合わない、きな臭い香りに振り返らずに声をかける。






「俺になんかよぅ?」






「死んで頂く。」






「あー、それは勘弁。」





風の防御壁が弾き返した。





銀の剣が落ちてくる。




「!」
巻き毛がはらりと落ちた。





「何処の誰?」






「それは言えない。」
バンパイアの癖に銀の剣を使うか…。






どうやら相手は本気らしい。





「これは使いたくはなかった…。」






上級者らしいからな…。有り難く思えよ…。






風が舞っている。






長く美しい翡翠の宝玉のついた剣を…。






乱舞のように死の踊りが始まった。






転がって行く死体に風が通り過ぎる。






あちこちに疾風の刃が牙をむき。
血の海になる。






群がる蠅は数多く…。
倒されても数が減らない。






銀の刃物が次々襲いかかる。
あぁ…。面倒…。
きりがない。
何より…。美しくない。





気まぐれな風には風の美学があった。






遊びすぎたか銀の刃物が目の前に…。






「!」






「目を離すとこれだから…。」






あぁ…。美しくないは訂正。
ここにあった。






「やっぱり君は優秀なバンパイアだ。」






氷の刃が銀の刃を弾き返した。






「やっぱりデートしよ…。」





「あり得ません!」
冷気が銀の刃物を凍らせ身動きを封じる。






「ちっ!」






バンパイアの集団が一斉に飛び込んでいく。






冷気を纏いながら切り込んで行く。彼女は美しく見えた。






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