ブラッククロス

外伝 黄昏の聖女

夕闇迫る黄昏時に現れる黒い天馬。
それを見た村人は恐れをなして家に入る。





家路を急がせる為に子どもに聞かせる言い伝え…。おとぎ話…。
夜は暗くて怖いのだと…。
だから静かに眠りなさい…。
出ないと黒い天馬にさらわれるよ…。





もうすぐ、月の光が煌々とある村を照らそうとしている。





ある兄妹が家路を目指す。





「お兄ちゃん…。」





泣き始める妹…。






「泣くなよ…。大丈夫。な?」





「うん。グスン…。」





遊びに夢中になって帰るのが遅れた。兄は自分も泣きそうなのを我慢する。妹が不安になるから。




「うぉぉぉーん!」





「ギャアギャア!!」





森から獣の声…。狼や烏が鳴いている。





「お兄ちゃん!」
しがみつく妹。





小走りになりながら家を目指す。





がさり…。






「!」





不味い…。





勘のよい兄は身を翻して妹を引っ張って走る。





子どもの足ではすぐ追い付かれた。





妹を背に庇う。
「来るな!あっちいけ!」





子どもの目には大人がいる。





「助けてやろうてぇのに。」





どう見ても人さらいにしか見えない。





「来るな!」






ジリジリと歩みよる五人の大人がいる。





獣なんかよりコイツらの方がよっぽど恐ろしい。




「何処からいく?」





ナイフを出した男がきいた。





「やっぱり小さい方か…。」





ニタリと笑いながら近寄る。悪寒がした。





「誰か!助けて!」





叫ぶがここは村外れ…。





小さな叫び声は森に吸い込まれる。
言い付けを守らなかったばかりに…。





「面倒だ。」





ナイフが兄に降り下ろされた。






「な?なんだありゃ?!」





森の中に黄緑色の炎が浮かんでいた。





「鬼火…。」






そして、ナイフが落ちる。





「なんだこいつら!何処から来やがった!」





狼の群れに囲まれていた。





あぁ…。神様、母さん父さんごめんなさい。






絶望しか兄にはなかった。





空から声が落ちる。






「あなた達何してるの?」





凛とした声が落ちる。





< 129 / 133 >

この作品をシェア

pagetop