ブラッククロス
ジル…。
王族と関わりを持ったバンパイア。
術にかけては右に出るものはいないほど秀でていた。





闇の世界の結界を作ることも王族の使命。だからこそ彼女に惹かれてしまったのか…。





彼女は卑しい身分。故に…。弾かれた。その身にそれを抱えて。





確かにその内に魔力を秘めていた…。





彼女はそれを知りそれに全てを教えた。
産まれて直ぐ様言語を発したそれに。





ただひとつだけ最後に命と引き換えに魔力の全てと宝玉を…。





故に…。力尽きた。
バンパイアにも死はある。





それは子どもから少年へと成長する。






ひっそりとそれは成長していく。
片目のバンパイアはバンドーという名だった。





少年に成長したそれは…。





片目のバンパイアに鍛えられた…。生き抜く為に…。最初から備わっていた天性のものに拍車をかけて。





バンドーという彼はバンパイア王族直属の暗殺部隊に所属する優秀なバンパイアだった。





それに名はなかった。
表情の片鱗さえも見せない。





部隊にもう一人表情がないようなく子どもらしからぬものがいた。





氷と霧の力を持ち合わせた若いバンパイア。
名をグラス…。二つ名は氷双のグラス…。





氷の美しい双剣を操る。美しいバンパイア。
その彼女からもそれは異様に感じていた。





いつも高い場所から何処かを見つめていた。






冷酷に暗殺を繰り返す…。彼女さえもそれは目を見開くように、それは暗殺者の瞳を宿していた。





いつからかそれと話すようになったのは…。






そう模擬戦のころからだった。






鋭利な氷の粒がそれを襲う。
風の防壁がそれをことごとく弾き返した。





グラスは素早く反転しながら飛び、双剣をそれに突き刺さした。





だが刺さることはなく、気がつけば脇に挟められている。





「!」






睨み付けるように顔を見れば…。それは笑っていた。
誰にも見せない、誰にも見えないように。






「甘く見るな!」






彼女の姿は霧に消え。辺りは霧に見えなくなる。
バンパイアさえも震えるような冷気。
この中に入った者は袋の鼠だ。






それは楽しむように辺りを伺う。






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