ブラッククロス
霧の中で氷の刃が降り注ぐ。





風は気まぐれに…。
穏やかに流れもし、あらゆるものを薙ぎ倒す。
あらゆるものを吹き飛ばし…。





模擬戦を見ていた他のバンパイアにも被害が及ぶ。





抱えた彼女へキスを落とす。





首には剣先が冷たく刺していた…。




その直後…。
氷の双剣は砕けた。
大きく長い…。今までに見たこともないような剣に…。




突風が吹き飛ばし、霧の防御も渇れていく。






敗けは確実だった。






それは急に冷めた目をし何処かへ消えていく。






それ以後それとは暗部で会うこともなく。
仕事をこなす日々に戻る。





隊長から呼び出しがかかるまで…。






秘密の部屋。城の何処か奥深く…。






「はっ?今なんと?」
隊長の言葉に耳を疑う。





「やつを見張れ…。」






珍しく眉根を寄せて抗議した。
「やつとは…。あれのことですか?」






「ただ見張るだけでよい。」





何故?異図がわからない。





「かわったことがあったら報告しろ。」






有無を言わさぬオーラに頭を下げて退出する。






尾行は…。おそらく成功している。
あれはただ街をさ迷っているようだ。
南瓜街を歩く。
何か…。探していた。






酒場に入るなり強い酒を飲んでいる。
バンパイアは滅多に酔わないがここの果実酒は特別だ。





酒場の猪頭に何かを話して奥に消える。






裏手から忍び込んで天井に潜む。
視れば女とよろしくやっているところ…。






こっちの気も知らないでまったく、意味はあるのか?






それにしても…。
代わる代わる餌をついばんでいく。





人間…。






フラフラと何人出て行ったかわからない。
誰の所有物になっているのかわかったものではないのに。
下手に上級者の所有物だったら身が危うい。
まぁ金を握らせているようだけれど…。






ふいに…。頭が上がる。翡翠の瞳はオパール色に白濁していく。






その時の餌はぐったりとしていた…。
風の音。






グラスは屋根の上に避難した。
風の刃が飛んでいく。






首元に翡翠の瞳が見えた。





「覗きは…。いけないな。」






「!」
しまった…。気配を消したが読まれていたらしい。



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