キミがいなくなるその日まで




私はベッドの脇にある丸い椅子に腰かけてシンと同じ目線になった。

シンの部屋は日当たりがよくて体がポカポカする。


『来てくれて嬉しいよ』


改めてシンがニコリと笑った。

私はとっさに目線を反らし、少し不機嫌な振りをした。


『あ、あんたが毎朝私の部屋に来るから……』

その後の続きが出てこない。

ここに来る途中ずっと理由を考えていた。だって理由もなしに部屋に行くのは変な気がして。


『うん。だから俺の部屋にも来てくれてありがとね』


───なんか気にくわない。

これじゃまるで私が子供みたいじゃない。シンは私より3つも下なのに。


『……別に来たくて来た訳じゃないし。わ、私は
“これ”の文句を言いに来ただけだから』


ふいに思い付いた言い訳に私はポケットからある物を取り出した。

それは今日シンが織ってくれた猫の折り紙。


『これタヌキじゃん!絶対猫じゃない』


言った後で余計に子供みたいな事を言ってしまったと後悔した。シンに笑われると思ったけど案外シンも会話にノってくれた。


『えー猫だよ。だって耳が尖ってるよ?』


『私にはタヌキに見える。つーか猫だったら普通オレンジの折り紙使うでしょ』


『えーオレンジじゃキツネになっちゃうよ』


『キツネは黄色だし』


思いの外盛り上がってしまったトークに私はハッと現実に返った。


『ま…まぁ別にタヌキだろうがキツネだろうが私には関係ないけど』


今さら大人ぶってみたけど、シンは私のさらに上をいく。


『それなら明日はクマにするよ。クマは茶色だからね』


ここで“いらない”と言えば少しは大人に見えるかもしれない。でも私から出た言葉は『うん』だった。



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