キレイをつくる保健室
花崎を教師として見守っていこうと思った。卒業までは、ひとりの生徒として見守っていこうと。
実際に、花崎を見ていくうちに、彼女は綺麗になっていった。それは自分の良さ、長所に気づくことが出来て、それを生かすことを覚えたからだろう。
メイクをするようになって派手になるのでは、非行に走るのでは、なんていうのは、僕の杞憂(キユウ)だった。
花が開くように、美しく綺麗になっていった。
そうして何よりも僕が嬉しかったのは、イラストやアートへの関心も高まったことだった。以前書いていたイラストは、何となく寂しげなものが多かったし、彼女自身、そういう絵しか描けなかったのだろう。
今は、様々な色を知り、彩ることを覚え、イラストを描くことでも冒険をするようになった。
僕は、花崎をずっと見つめていた。見守っていた。彼女が大人の女性になったら、卒業したら、僕の気持ちを伝えたいと願った。
しかし、僕もまだまだ男として未熟で臆病だったから、言えなかった。
肝心な卒業式で、「おめでとう」と花崎に祝いの言葉を伝えるので、精一杯だった。僕に、チャンスはまだ、残されているのだろうか。告白のチャンス。
そう思いつつ美術教師として教え続ける日々のなかに、ある一通の招待状がやってきた。
ゆり先生と瀬名先生の結婚式の招待状だ。
ふたりは火事のときから、急接近したようだった。