潮騒
頭がくらくらとして、まだ上手く思考がまとまらない。


と、それを打ち破ったのはドアの開く音。


あれからどれくらいが経ったのが、やっとマサキが戻ってきた。



「遅いよー、まちゃまちゃ!」


チェンさんは先ほどのこともどこへやら、いつも通りにふざけて笑う。



「悪ぃ、増田さんに捕まってて。」


「あぁ、あの人って嫌になっちゃうよねぇ。」


「お前よりはマシだけどな。」


ひどーい、なんてチェンさんの言葉。


あたしはとにかく落ち着こうと煙草を取り出し、火をつけた。



「んで、お前ら何やってたの?」


マサキの言葉に、けれど目を輝かせたチェンさんは、



「そうそう、聞いてよ!
さっきルカちゃんに徳川家康って発明家のおじいちゃんのこと教えてもらってたの!」


「いや、家康って発明家じゃなくて将軍様だろ。」


「…ショウグンサマ?」


「んー、だから今で言うところの総理大臣みてぇなもんで、まぁ、昔日本で一番偉かった政治家っつーか、支配者。」


「へぇ、何かよくわかんないけどすごい人ってことかぁ!」


「まぁ、歴史なんて知ってたって、あんま役には立たねぇけどな。」


子供みたいなチェンさんと、何だかんだ言いながらも突き放さないマサキ。


マサキはきっと、面倒見が良い男なのだと思う。


で、チェンさんはきっと、そんな彼に心のどこかで甘えているのかもしれない。



「つーか、マジで腹減ったし、こんな馬鹿は放っといてさっさと飯行こうぜ。」

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