潮騒
一通りの食事を終えて、ふたりで数本のビールを開けた後、あたしは頬杖をついた状態でレンを眺めていた。


彼はそれに気付き、「何だよ?」なんて小突いてくるが。



「んー、やっぱり良いや。」


結局、聞くに聞けなかった。


美雪と今はどうなっているのか、レンは本気になっちゃったのか、彼女の抱えているものを知ってるのか、なんて。


散々迷ったけれど、でもやっぱりあたしは所詮、部外者なのだから。


それじゃ気になるだろ、と口を尖らせる彼を無視し、ため息混じりに煙草を咥えた。


ふうっ、と息を吐いた時、



「あ、そういえばさぁ!」


レンは何かを思い出したようにこちらへと顔を向ける。



「初詣の時にルカが一緒だった男のことだけど。」


「何よ、またその話?」


「じゃなくてさぁ、俺どっかで会ったことある気がするんだよねぇ。」


「……え?」


驚いたあたしをよそに、レンは考え込むように宙を仰ぐ。



「何か見覚えがあるっつーか、すげぇ気になるんだよ。」


「そんなもん、どうせ他人の空似か、街ですれ違ったとかじゃないの?」


「いや、最近のことじゃないと思うけど。」


その言い回しには、喉に小骨が詰まったみたいな感覚になる。


これでもレンの記憶力は折り紙つきで、一度見た人の顔は忘れないし、学生時代には暗記だけでテストを乗り切っていたような男だ。


さすがにあたしまで気になってくるが、



「まぁ、勘違いかもしれねぇけどさ。」

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